
はじめに
自転車は免許がなくても乗れる、手軽で便利な移動手段です。ですが、自転車に関しては道路交通法等で細かくルールが決まっています。自転車に関するルールを守らなければ思わぬトラブルに巻き込まれることがあります。この記事では、自転車に関する法律を解説します。
自転車は車道を通行するのが原則
道路交通法では、自転車は「軽車両」です。自動車や原付と同様に「車両」として取り扱われます。
(定義)
道路交通法
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(略)
八 車両 自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう。
(略)
十一 軽車両 次に掲げるものであつて、移動用小型車、身体障害者用の車及び歩行補助車等以外のもの(略)をいう。
イ 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽けん引され、かつ、レールによらないで運転する車(略)
自転車は「車両」ですから、自転車が通行するときには、原則として車道を通行しなければなりません。
(通行区分)
道路交通法
第十七条 車両は、歩道又は路側帯(以下この条及び次条第一項において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。(略)
道路左側の路側帯を通行することはできますが、「著しく歩行者の通行を妨げることとなる場合」でなければならず、「歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行」しなければなりません。
(特例特定小型原動機付自転車等の路側帯通行)
道路交通法
第十七条の三 特例特定小型原動機付自転車及び軽車両は、第十七条第一項の規定にかかわらず、著しく歩行者の通行を妨げることとなる場合を除き、道路の左側部分に設けられた路側帯(略)を通行することができる。
2 前項の場合において、特例特定小型原動機付自転車及び軽車両は、歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行しなければならない。
路側帯を歩いているとき、正面から猛スピードで近づいてきた自転車がすぐ近くを走り抜け、思わず立ち止まってしまったことはないでしょうか。これは、自転車の運転者が「歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行」していません。自転車が路側帯を通行するときは、歩行者との距離は十分空けなけれいけません。それが難しいのであれば、原則通り車道を通行するべきです。
ちなみに、先程の事例は、自転車の運転者に道路交通法違反という犯罪が成立しています(道路交通法119条1項6号)。
自転車が通行するときには、原則として車道を通行しなければなりませんが、例外として自転車が歩道を通行できる場合もあります。歩道を通行できるのは、
- 道路標識で自転車通行可と標示されている
- 運転者が児童、幼児(13歳未満の者)、70歳以上の者、身体障害者等のとき
- 道路の状況に照らしてやむを得ないとき
です。
この場合、自転車は歩道の車両寄りの部分(自転車通行指定部分があるときはその部分)を徐行しなければなりません。また、歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止しなければなりません。
この規定に違反したときも、先程の路側帯の事例と同様に道路交通法違反なります(道路交通法119条1項6号)。
(普通自転車の歩道通行)
道路交通法
第六十三条の四 普通自転車は、次に掲げるときは、第十七条第一項の規定にかかわらず、歩道を通行することができる。ただし、警察官等が歩行者の安全を確保するため必要があると認めて当該歩道を通行してはならない旨を指示したときは、この限りでない。
一 道路標識等により普通自転車が当該歩道を通行することができることとされているとき。
二 当該普通自転車の運転者が、児童、幼児その他の普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者であるとき。
三 前二号に掲げるもののほか、車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき。
2 前項の場合において、普通自転車は、当該歩道の中央から車道寄りの部分(道路標識等により普通自転車が通行すべき部分として指定された部分(以下この項において「普通自転車通行指定部分」という。)があるときは、当該普通自転車通行指定部分)を徐行しなければならず、また、普通自転車の進行が歩行者の通行を妨げることとなるときは、一時停止しなければならない。ただし、普通自転車通行指定部分については、当該普通自転車通行指定部分を通行し、又は通行しようとする歩行者がないときは、歩道の状況に応じた安全な速度と方法で進行することができる。
(普通自転車により歩道を通行することができる者)
道路交通法施行令
第二十六条 法第六十三条の四第一項第二号の政令で定める者は、次に掲げるとおりとする。
一 児童及び幼児
二 七十歳以上の者
三 普通自転車により安全に車道を通行することに支障を生ずる程度の身体の障害として内閣府令で定めるものを有する者
自転車運転の禁止行為
自転車は「車両」ですから、自動車の運転と同様、自転車の運転でも禁止されている行為があります。
例えば、次の行為は禁止されています。
- 信号無視(道路交通法7条)
- 無灯火運転(道路億通報52条)
- 酒気帯び運転(道路交通法65条1項)
勿論、違反したときには道路交通法違反になります。
また、「軽車両」特有のルールで、並走が禁止されています。
(軽車両の並進の禁止)
道路交通法
第十九条 軽車両は、軽車両が並進することとなる場合においては、他の軽車両と並進してはならない。
これも道路交通法違反になります。
学校からの帰り道、同級生と自転車を並走してお喋りしながら帰宅していたことがありましたが、実はあれも犯罪なのですね。
ヘルメットを着用する
2023年4月の道路交通法改正で、自転車の運転者はヘルメットを着用することなりました。これは、義務ではなく遵守事項となっており、罰則はありません。ですが、ご自身の生命を守るためにも、ヘルメットは着用しましょう。
(自転車の運転者等の遵守事項)
道路交通法
第六十三条の十一 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。
2 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
3 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
自転車事故と法的責任
自転車を走行しているとき、過失で歩行者等を怪我をさせた場合、民事では被害者から損害賠償を請求されます。金額は被害者のケガがどれくらい重たいかによって変わってきます。後遺症が残るような重い怪我であったときは、数千万円という高額になることもあります。注意していただきたいのは、過失の態様はそれほど悪質ではない場合でも、結果的に被害者の怪我が重たいときは、高額の損害賠償支払義務を負うことがあるということです。例えば、被害者が高齢者のときは、損害賠償金が思いがけず高額になることがあります。
また、過失で歩行者等に怪我をさせた場合も、刑事では道路交通法違反だけではなく、過失致傷罪(刑法209条)や重過失致傷罪(刑法211条)が成立しますので、刑事罰を受けることもあります。
(過失傷害)
刑法
第二百九条 過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
(業務上過失致死傷等)
刑法
第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
くれぐれも安全運転を心がけましょう。それでも事故を起こしてしまう可能性はゼロではありませんから、万が一二に備えて、自転車保険には加入しておきましょう。
まとめ
自転車は便利な乗り物ですが、ルールを守らなければ思わぬトラブルにつながります。安全に楽しく乗るためにも、ルールをしっかり理解し、正しく運転しましょう。