はじめに
ウェブで事件報道に関して話題になっているのを見ていると、民事法と刑事法がごっちゃになっている人が見受けられます。
民事法と刑事法の違いは、法律を多少でも勉強していれば、当たり前のことです。ですが、あまりにも当たり前すぎて日ごろの報道で直接触れられることは少ないからか、民事と刑事の違いを理解していない人も少なくないようです。
このエントリーでは、民事法と刑事法の違いを初心者向けに解説してみます。
民事法と刑事法はどこが違うの?
法律は大きく分けると、民事法と刑事法に分類されます。民事法と刑事法は、その目的と当事者が異なります
ざっくりと説明しますと、民事法と刑事法は、
- 民事法
- 個人や会社等の私人間の権利義務関係やそれに関する紛争についてのルール
- 刑事法
- 国が私人に対して刑罰を与えるときのルール
という違いがあります。
民事法は、個人や会社等の私人と私人との間の紛争を解決することを目的としてます。
刑事法は、国が私人に対して適切に刑罰を与えることを目的としています。
民事訴訟と刑事訴訟はどこが違うの?
法律が民事法と刑事法に分けられますので、訴訟(いわゆる裁判)も民事訴訟と刑事訴訟があります。
民事訴訟と刑事訴訟の違いをざっくりと説明すると、次のようになります。
| 民事訴訟 | 刑事訴訟 | |
| 目的 | 当事者間の紛争を解決する | 国が私人に適切に刑罰を与える |
| 当事者 | 原告(訴える人) と 被告(訴えられる人) | 検察官と被告人 |
| 立証責任 | 事実毎に立証責任を負う当事者が異なる | 検察官が立証責任を負う |
| 判決の内容 | 金銭の支払命令、物の引渡し命令等 | 死刑、懲役刑、罰金刑等 |
| 被害者の地位 | 当事者になる | 当事者ではない |
具体例で考えてみよう
傷害事件で考えてみよう
具体的に、傷害事件で考えてみましょう。
民事法ではどうなる?
被害者であるVは、Aに対して損害賠償金(治療費、慰謝料等を請求することができます(民法719条)。AとVとの間で話合いで解決できればよいのですが、金額をいくらにするかで折り合いがつかないときには、Vが原告になり、Aを被告として損外賠償請求訴訟を提起します。
民事訴訟は、Aが損害賠償義務を負うのか、損害賠償義務を負うのであればBの損害額をいくらと評価するのかが審理されます。
刑事法ではどうなる?
Aは暴行でBを負傷させていますので、傷害罪(刑法204条)という犯罪をしています。検察官が、Aに刑事罰が相当と判断すると、Aを被告人として起訴します。
刑事訴訟では、Aが犯罪をしたのか、犯罪をしたのであればどのような刑事罰が相当なのかが審理されます。
被害者の地位に注意
注意するのが被害者の地位です。
民事訴訟では、被害者のVは原告として当事者になります。
刑事訴訟では、当事者は検察官と被告人であるAであり、Vは当事者ではありません。訴訟の中で、Vが法廷で話をする必要があるときは、証人として扱われます。
このように刑事訴訟の場で被害者を証拠として取り扱うのは、犯罪被害者の権利の観点からおかしいのではないかという批判がありました。そこで、現在では被害者参加制度等の制度が設けられ、傷害等の一定の事件では被害者が当事者に準じる立場で刑事訴訟に参加できるようにはなりました。ですが、刑事訴訟の当事者が検察官と被告人であるという大原則は現在でも変わっていません。
示談はどのように扱われるの?
他に注意するのが、いわゆる示談の取扱です。
示談というのは、一般的には、紛争に関して当事者間で合意をすることです。先程の傷害事件ですと、
- Aは、Vに対して謝罪する。
- Aは、Vに対して、損害賠償金50万円を支払う。
- AとVは、他にはお互いに債権債務がないことを確認する(いわゆる清算条項)。
という内容で示談することが考えてます。
示談は、AとVという私人間の間の合意ですから、民事法に関することです。
とはいえ、刑事法でも、被害者がいる事件では、
- 検察官が起訴するか不起訴にするかを判断するとき
- 裁判所が言渡す刑事罰を判断するとき
には示談が成立しているかどうかが大きな判断要素になります。
このように民事法と刑事法は、実際の事件では関連していることがあります。
まとめ
民事法と刑事法は、そのれぞれ目的や手続きが異なります。
民事法は、個人や会社等の私人と私人との間の紛争を解決することを目的としてます。
刑事法は、国が私人に対して適切に刑罰を与えることを目的としています。
実際の事件では民事法と刑事法が関連することもありますが、民事法と刑事法は異なる法分野です。
事件報道に接するときには、それが民事法の話なのか刑事法の話なのかを理解しないと、的外れな意見になりかねません。