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4月1日生まれが早生まれになる理由 日常生活と法律④

4月1日生まれは早生まれになる


年度が変わり、進学、進級のシーズンになりました。
日本では「早生まれ」という言葉があります。一般的に、1月1日から4月1日までに生まれた人を早生まれと呼びます。
例えば、今年(2025年)4月に小学校に入学するのは、2018年4月2日から2019年4月1日までに生まれた子です。この内、2019年1月1日から2019年4月1日までに生まれた子が、早生まれです。
早生まれは、同学年の中では比較的遅く生まれていますので、勉強やスポーツで不利と言われています。
ところで、日本では、一般的には年度は4月1日から翌年の3月31日までです。それなのに、4月1日生まれが早生まれになるのはなぜかというと、法律でそのように決まっているからです。

小学校に入学するのはいつから?

学校教育法は、就学年齢に関して、次のように規定しています。

第十七条 保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。
② 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
③ 前二項の義務の履行の督促その他これらの義務の履行に関し必要な事項は、政令で定める。

[zhttps://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000026/#Mp-Ch_2-At_17:title=学校教育法]

このように「子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから」小学校に就学させなければなりません。
ここで「学年」というのは、学校教育法施行規則が次のように規定しています。

第五十九条 小学校の学年は、四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わる。

学校教育施行規則

今年の場合、2025年3月31日までに満6歳に達した子が、2025年4月1日から始まる学年の初め、すなわち2025年4月1日から小学校に就学することになります。

4月1日生れの子はいつ年をとるの?

学校教育法の条文からすると、2019年4月1日生まれの子は、2025年4月1日に満6歳になるのだから、2025年3月31日の時点では満6歳ではないのではないか、と思われたかもしれません。ですが、そうではありません。2019年4月1日生まれの子は、法律上は、2025年3月31日に満6歳になるのです。
年齢の数え方について、明治35年法律第50号(いわゆる「年齢の計算に関する法律」)は、次のように規定しています。

① 年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス
② 民法第百四十三条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス
③ 明治六年第三十六号布告ハ之ヲ廃止ス

明治三十五年法律第五十号(年齢計算ニ関スル法律)

明治時代の法律で、漢文調の文語体の条文なのが時代を感じますが、今でも有効な法律です。この法律は、年齢の数え方について、数え年ではなく、満年齢が採用しています。
ここで注意していただきたいのは、年齢は「出生ノ日ヨリ之を起算ス」と初日算入を規定していることです。
年齢の計算に関する法律が準用する民法143条は、次のように規定しています。

(暦による期間の計算)
第百四十三条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。

民法

1年という期間は、「その起算日に応答する日の前日に満了する」と規定されています。
この規定では、2019年4月1日生れの子の年齢は、次のように数えます。
まず、起算日は、2019年4月1日です(年齢計算に関する法律)。起算日から6年後に満6歳になります。起算日から6年後は、「その起算日に応答する日の前日」、すなわち2025年3月31日です。2019年4月1日生れの子は、2025年3月31日午後12時00分(24時00分)の時点で満6歳になります。
2019年4月1日生れの子は、2025年3月31日の時点で満6歳に達していますから、「子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから」、すなわち2025年4月1日から小学校に就学します。

4月1日生まれが早生まれと法律で決まっているのはなぜか

このように4月1日生まれが早生まれなのは、法律で決まっているからです。
ですが、そもそもなぜこのような規定になっているのでしょうか。常識的には、4月1日生まれは、4月1日に年をとると思われます。
以前、この問題が国会で取り上げられたことがあります。2002年の通常国会で、平野平文衆議院議員は、次のような質問をしました。

学校教育法上、今年度より小学校への入学義務のある子どもは、一九九五年四月一日生まれまでが対象となる。「年齢計算ニ関スル法律」に基づき、法律上の満年齢計算では誕生日の前日に年齢を加算するため、このような取扱いになっていることは承知している。
しかし一般常識からすれば、学年や年度は四月一日にはじまり、翌年三月三十一日に終わるものである。文部科学省は、なぜ、数十年間に渡り一般常識と異なった取扱いを維持しているのか。また、この点についての国民からの苦情や疑問に、どのように回答してきたのか。

年齢の計算に関する質問主意書

ごもっともな指摘だと思います。これに対する国の答弁は、次のような内容でした。

子女に対してその心身の発達に応じひとしく教育を施すため、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第二十二条は、子女の保護者は子女の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから当該子女を小学校に就学させる義務を負う旨を定めている。そして、学校教育法施行規則(昭和二十二年文部省令第十一号)第四十四条は、小学校の学年は、四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わると規定しており、これは、各種の法令上の一般的な年度の定め方と合致している。これらの規定により、例えば、平成十三年四月一日から平成十四年三月三十一日の間に満六歳に達した子女の保護者は、平成十四年四月一日から始まる学年の初めから当該子女を小学校に就学させる義務が生ずることとなるところ、年齢の計算を年齢計算に関する法律に基づいて行うと、右の期間に満六歳に達するのは、平成七年四月二日から平成八年四月一日の間に生まれた者となる。このような法令に従った取扱いについて、「一般常識と異なった」ものであるとの御指摘は、必ずしも当たらないと考える。
子女の年齢と当該子女を就学させる義務との関係に係る国民からの問い合わせ等に対しては、年齢の計算については年齢計算に関する法律の規定による旨を説明し、御理解をいただいているところである。

衆議院議員平野博文君提出年齢の計算に関する質問に対する答弁書

4月1日生まれが3月31日に年をとるのは、一般常識と異なったものではない、というのです。本当にそうなのでしょうか。
このエントリーを書くにあたって、なぜ4月1日生まれが早生まれと法律で決まっているのかを調べたのですが、よくわかりませんでした。法律を作るときに、法律間の整合性をどこまで考えていたのだろうか、とは思いました。

まとめ

4月1日生まれが早生まれのは、法律で決まっているからです。ですが、なぜ4月1日生まれが早生まれと法律で決まっているのかはよくわかりませんでした。
年齢の数え方という日常的な話でも、その背景には法律があるのです。