
元裁判官の村山浩昭弁護士が法制審再審法部会の委員に就任するというニュースが流れてきました。
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法制審とは?
法制審という組織は、一般の方にはなじみが薄いかもしれません。
法制審、正確には法制審議会は、法務省内の組織です。「法務大臣の諮問に応じて、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議すること」(法務省組織令第55条第1項)等が役割です。
「諮問」というのも日常会話ではでてこない単語ですが、意見を尋ね求めるという意味です。
簡単に言いますと、法務大臣から「○○について、意見をください」と尋ねられたのに対して、調査や議論をし、その結果を法務大臣に対して回答するのが法制審です。
委員には、主に法学者、裁判官、検事、弁護士等の法律の専門家が就いています。また、専門家以外の意見も反映させるため、財界、労働組合、市民団体等からも委員が選ばれています。いずれの委員も、各々の分野で日本を代表する経験と実績をお持ちの方々です。
現在の委員や審議されている事項は、法務省のホームページで公開されています。
www.moj.go.jp
再審法改正とは?
現在問題になっているのは、いわゆる再審法改正です。
刑事の再審については、刑事訴訟法435条以下に規定されています。これらの規定は1948年の刑事訴訟法制定以来、一度も改正されたことがありません。その内容についても、条文の数も少なく、具体的にどのように再審の手続を進めるかのルールがないに等しいのです。
再審の審理を具体的にどのように進めるのかは、担当する裁判官の裁量に委ねられています。そのため、担当裁判官が再審の審理にどこまで積極的かによって審理の進行が大きく変わる(いわゆる再審格差)があると指摘されていました。
特に、日弁連が問題にしているのは、
- 再審開始決定に対して検察官の不服申立権があること
- 証拠開示に関するルールがないこと
です。
このような再審に関するルールの不備が、再審請求審の長期化につながっているのではないかと指摘されてきました。
その一例がいわゆる袴田事件です。袴田事件は、2024年に再審無罪判決が確定して大きな話題になりました。袴田事件では、1981年4月第一再審請求を申立てから、2024年10月無罪判決確定まで、43年以上かかりました。その内、第二次再審請求審の審理、つまり2008年4月に第二次再審請求を申立ててから、2023年4月に再審開始決定が確定するまでだけでも、15年もかかっています。重大事件であり、慎重な審理が必要なのはわかりますが、いくら何でも長すぎるというのが一般的な感覚ではないでしょうか。
日弁連は、再審法改正実現本部を設置し、国に対して再審法改正を求めてきました。これに対して、法務大臣は、2005年2月、再審法改正に関して法制審議会に諮問することを明らかにしていました。
村山弁護士は何を期待されているのか?
法制審の委員は、錚々たる顔ぶれです。それにもかかわらず、法制審のあり方には疑問の声があがっていました。
法制審は、事務方を法務省の職員が務めています。法務省は、検察庁に牛耳られている官庁です。そのため、特に刑事法に関する分野では、法制審の調査審議には検察庁の意向が強く反映されてしまい、法制審の委員はいわば検察庁の意向にお墨付きを与えているだけではないかという批判があるのです。今回の再審法改正についても、法制審議会に諮問することで、日弁連の意見は反映されないのではないか、法制審に諮問をしないで議員立法で改正するべきではないか、との声があがっていたのです。
そこで、村山弁護士が法制審の委員に就任する、というニュースが流れてきました。村山弁護士は、元裁判官で、いわゆる袴田事件について2014年3月静岡地方裁判所が再審開始決定をだしたたときの裁判長です。実際に裁判官として再審請求審の審理に関わり、再審に関するルールの不備を身をもって体験しています。す。また、2021年9月に定年で裁判官を退官されてからは、弁護士になり、日弁連再審法改正実現本部の委員を務め、再審に関して積極的に発言をしています。
村山弁護士であれば、事務方の意向におもねることなく、ご自身の意見を発言するでしょう。他の委員からも、村山弁護士の発言は一目置かれるでしょう。村山弁護士が法制審の委員になることで、法制審の調査審議に日弁連の意見が反映される可能性が高くなると思われます。
今後の法制審の調査審議に注目!
報道によると、法制審再審法部会は、2025年2月21日に第一回会合を開く、とのことです。経過や会議の内容は、今後、法務省のホームページで公開されるでしょう。
冤罪を防ぎ、万が一発生した場合の迅速な救済につながるような法律の改正が実現するのか、注目されます。