はじめに

2026年1月23日に召集が予定される通常国会の冒頭で衆議院を解散することを高市総理が検討している、と報道されています。
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このタイミングで解散することの是非に関して、様々な意見がでています。
ところで、内閣による衆議院の解散には、憲法上、明文の規定がありません。これは、憲法を学び始めたときに、違和感を覚えるところです。
憲法には衆議院解散権の条文がない
日本国憲法には、内閣の衆議院解散権を明示した条文はありません。
衆議院解散について、憲法には次の条文があります。
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
憲法
(略)
三 衆議院を解散すること。
第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
憲法
これらの条文には、「誰が」「どのような場合に」衆議院を解散できるのかは、明確には書かれていません。
憲法7条3号では、「衆議院を解散すること」は天皇の国事行為とされています。この部分だけを見ると、天皇が解散権を持っているかのようにも読めます。
ですが、日本国憲法は、天皇を「象徴」と位置づけ、政治的権能を否定しています(憲法1条、4条)。国事行為はすべて「内閣の助言と承認」に基づいて行われるものであり、天皇自身が衆議院の解散という政治的な決定を行うことはできません。
69条では、「解散」という選択肢が存在することを前提としていますが、解散権を正面から規定していはいません。
衆議院解散は憲法上予定された制度ではありますが、その核心である「誰が」「どのような場合」に衆議院を解散するのかについては、条文上は明示されていないのです。
「誰が」「どのような場合」に解散できるのか
この問題については、1940年代後半から1950年代にかけて、いわゆる解散権論争が活発に行われました。
問題の出発点は、天皇の国事行為に対する内閣の「助言と承認」に実質的な決定権があるかどうかということです。
考え方の一つは、天皇の国事行為はすべて形式的、儀礼的なものですから、「助言と承認」は実質的決定権を含まないという考え方です。この考え方では、誰がどのような場合に衆議院を解散するのかは憲法7条以外の条文に求めなければなりません。そこで、憲法69条を根拠に、衆議院の不信任決議が可決された、又は信任決議が否決された婆に限り、内閣が衆議院を解散することができるという説があります(69条説)。また、憲法が議員内閣制を採用していることを根拠に、内閣には自由な解散権があるという説もあります(制度説)。
もう一つの考え方は、天皇の国事行為に対する内閣の「助言と承認」は、実質的決定権を含む場合もあるという考え方です。そこで、憲法7条3号の衆議院解散に対する内閣の「助言と承認」を根拠として、内閣には自由な解散決定権があるとします(7条)。
実務上は憲法7条を根拠に自由な解散決定権がある
この問題は、憲法の条文の不備に由来するものですから、どの説が正しいのかは難しい問題ではありますが、実務上は一貫して7条説がとられてきました。
現行憲法で衆議院が解散されたのは、26回です。この内、内閣不信任決議可決によって衆議院が解散されたのは4回です。残る22回は内閣不信任決議とは直接の関係がない場面で、内閣が衆議院を解散しました。
既に7条説は慣習法化しているとも言われています。
それでも残る明文なき権限の危うさ
だからといって問題が完全に解消されたわけではありません。内閣の衆議院解散権が、憲法に明文で書かれていないという事実は、今なお重い意味を持っています。
衆議院解散権は、選挙で選出された衆議院議員から一切の権原を奪う強力な権限です。その衆議院解散権の行使が、憲法の明文の規定ではなく、慣行や政治判断に大きく委ねられています。内閣が衆議院解散権を適切に行使しているのかは、常に批判監視されなければならないのです。