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「国旗損壊罪」が新設?外国国旗損壊と同様に考えられない理由

国旗損壊罪が新設?


2025年10月の高市政権発足の際、自民党と日本維新の会は、「国旗損壊罪」を制定する方針を合意しました。
2025年11月4日の衆議院本会議では、藤田文武議員(日本維新の会共同代表)の質問に対して、高市総理は「国会損壊罪」の成立に向けて取り組むと答弁しています。
日本国の国旗である日の丸を燃やす、踏みつけるといった行為を処罰すべきかどうかは、SNSでは感情的な賛否が先行しているようです。ですが、この問題を考えるときには、何を守るための犯罪なのかという保護法益の観点からの議論が必要です。

現行法における外国国旗損壊罪

現行刑法は、外国の国旗等を損壊する行為を犯罪としています。

(外国国章損壊等)
第九十二条 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。

刑法

ここで重要なのは、外国国章損壊罪の保護法益です。
保護法益とは、法律によって保護される利益のことです。例えば、殺人罪の保護法益は、人の生命です。
現在では、外国国章損壊罪の保護法益は、日本国の外交作用と理解されています。外国国章損壊罪は、外国の国旗という物それ自体や国民感情を守るためのものではありません。外交に対して侮辱を加える目的で外国の国旗を損壊する行為は、その外国との外交関係を害するおそれがあります。これは日本国民の利益を損ねます。そこで、日本国の外交上の不利益を防止するために、外国国章損壊罪が制定されています。

「国旗損壊罪」を新設すると何が問題になるのか

では、日本の国旗(日の丸)を損壊する行為を処罰する「国旗損壊罪」を新設するとした場合、どのような保護法益が想定されるのでしょうか。
直感的には、

  • 国民の敬意感情
  • 国家の尊厳
  • 国民統合の象徴としての国旗の価値

といった言葉が思いつきます。
しかし、これらを保護法益とすることが妥当なのかは疑問です。国民の多数派の「不快だ」「許せない」という感情だけでは、刑事罰という重大な不利益を課す根拠としては不十分です。
特に問題となるのは、国旗損壊行為は政治的意思表明や国家権力への抗議という文脈で行われることが多いということです。国旗損壊行為を処罰することは、表現の自由(憲法21条)との関係で緊張関係を生じさせます。

外国国旗損壊罪と同じ理屈は使えない

外国国章損壊罪の理屈を、そのまま国旗損壊罪に使うことはできません
外国国章損壊罪の保護法益は、日本国の外交作用です。これに対して、日本国旗の損壊については、その行為によって日本国の外交作用が損なわれるということはあり得ません。
国旗損壊罪を制定するのであれば、立法担当者は、日本国の外交作用とは別の保護法益を説明しなければなりません。この点を曖昧にしたまま立法を行えば、実務上は混乱が生じますし、後の憲法訴訟で憲法違反と判断されるおそれもあります。
ですが、報道で見る限り、高市総理を始めとして国旗損壊罪の成立に意欲を示している方々は、保護法益に関する議論をおざなりにしているようです。

国旗損壊罪には別の保護法益が必要である

外国国章損壊罪の保護法益は、日本国の外交作用です。国旗損壊罪を制定するためには、日本国の外交作用とは別の保護法益が明確に説明されなければなりません。もし保護法益が、「国家への敬意」や「国民感情」にとどまるのであれば、刑罰による規制が憲法上正当化できるのかは、極めて慎重に検討されなければなりません。
国旗損壊罪の是非は、国を大切に思うかどうかという感情論ではなく、どのような行為に対して国家が刑罰権を課すことが許されるのかという、刑罰制度の根幹に関わる問題なのです。